REPORT レポート

上川町で「森のようちえん」プロジェクトが始動!

自然の中で遊びながら、算数が学べるってホント?

上川町で定期的に開講している大雪山大学。秋が深まりつつある9月末に実施された「野外で算数」講座は、「上川森のようちえんプロジェクト」のキックオフとして行われました。スウェーデンの野外教材「野外で算数」を使ったカリキュラムの実施をきっかけに、これからカミカワークプロデューサー(地域おこし協力隊)たちを中心とした継続的なプロジェクトとなることを目指しています。果たして森のようちえんとは何なのか、どんなことをしたのか、詳しくレポートしていきましょう。

今回実施する「野外で算数」とは、スウェーデンの野外教材を使った体験型プログラム。自然のものを使って遊びながら学ぶカリキュラムです。

▼大雪山大学が開かれた「大雪 森のガーデン」(写真左)/今回の大雪山大学の案内看板(写真右)

今回、講師として招いたのは、まさに「野外で算数」を翻訳し、日本に紹介したご本人である山本風音さんです。

山本さんには事前に上川町に来て頂き、あらかじめ会場選定の検討や上川町内の親子向けに体験説明会も行った上で、今回(9月28日・29日)の講座実施となりました。

▼講師の山本風音さん(写真左)/7月に行われた「野外で算数の体験説明会」(写真右)

まず1日目の28日は、継続的に実施するための担い手を育成するための講習会からスタートします。


参加したのは、カミカワークプロデューサーのメンバーに加え、森のガーデンで働くフィールドキーパー、地元町民の方など。そもそも「野外で算数」とは、スウェーデンの自然学校で実際に教えている教師たちが書いた本で、教育者向けの教材なのだそう。

最初に座学にて、山本さんの説明に耳を傾けます。
「体験型学習というと、野外で植物の名前を覚える……といったようなプログラムがほとんどです。しかし重要なのは、自然の中に潜む神秘や不思議に目を見張る感性、つまりセンス・オブ・ワンダーを分かち合い、身につけること。知ることは、感じることの半分も重要ではないのです」(山本さん)

▼参考にする実践ワークブック「野外で算数」(写真左)/「そうした感性は生まれながらにして誰もが持っています」と、山本さん(写真右)

教室を飛び出して五感を使って遊びながら、感じ、学んでいくこと。スウェーデンの自然学校で実践されている野外教育の考え方に、みんな興味津々です。

座学の後は、少しの休憩を挟んでいよいよ外に出て実践の時間です。まずは自然の中に落ちているものを何でもいいから取ってきましょう、という山本さんの言葉に、各々が気になったものを拾っていきます。

▼外に出て、いろいろ体験してみよう!(写真左)/自然の中には、いろんなものが落ちている(写真右)

集まったのは、木の枝、木の皮、石ころ、葉っぱなど、実にさまざま。これらを長いものから順番に並べていきましょうと、再び山本さんの言葉。これはすぐにできました。ところが次の「では、大きいものから順番に並べていきましょう」という言葉に、みんな戸惑います。人によって、重さだったり面積だったり、大きさの基準や概念が異なるからです。

これこそが、「野外で算数」の面白いところ。知識を与えられるのではなく、それぞれの違いを認識したり、そこから納得のできる答えを探したり。そうしながらも、算数の比較を学ぶことにも繋がっているのです。

▼「みんなが納得する並べ方は?」と話し合う(写真左)/グループに分かれて、図形の遊びも(写真右)

また、輪になった紐を使って出されたお題の図形を作っていくゲームも盛り上がりました。条件は、全員が紐に触れていること。

意外と頭と体を使う遊びで、グループごとの個性が出ます。

▼たとえば、お題が「立方体」だと、こんな感じ(写真左)/サイコロを使った遊びに歓声が上がる(写真右)

他に、2つのサイコロを振って出た数を足したり引いたりして、1から12までの数字を作っていく遊びも、盛り上がりました。2チームで競争すれば、大人でも自ずとヒートアップします。

さまざまな遊びを体験した後は、再び座学の時間です。振り返りをしつつ、これから上川森のようちえんプロジェクトを始動していく為の意見を交換し合います。
「日本ではまだ、幼稚園は遊ぶところ、小学校は学ぶところという認識で、2つが分断しています。その2つを繋げるのが、野外教育。自然の中で五感をフルに使って遊びながら、話し合い、協力し、問題解決に取り組みます。そうすることで、自主性や社会性、創造性なども養っていけるのです」と言う山本さん。体験して実感したからこそ、参加者は大いに納得した様子でした。


▼交流体験棟「チュプ」にて、再び座学(写真左)/1日目の学びを経て、2日目へ(写真右)

翌日、9月29日(日)は28日の担い手講習会をふまえて一般参加者向けにプロジェクトスタッフが実践します。いよいよ森のようちえんを実践する日です。応募開始から2日で定員を上回る大人16名、赤ちゃんを含む子ども19名の合計36名もの応募がありました。上川町からだけでなく江別市や北見市から参加の方もいます。
まずは前日学んだことを踏まえて、カミカワークプロデューサーの2人が、参加者に向けて説明とプロジェクトスタートの宣言を行います。

前日に引き続き、もちろん山本風音さんも参加しています。実際に何度も北欧に足を運び、スウェーデンの自然学校や野外教育者たちと交流を続けている山本さん。その言葉に、子を持つ親である参加者たちは、熱心に耳を傾けます。

▼森のようちえんを立ち上げた経緯について話す2人(写真左)/メモを取りながら聞く参加者の姿も(写真右)

ちなみに座学が行われている間、子どもたちはさっそく外に出ておおはしゃぎ。自然の中で遊ぶ大切さを、もしかしたら本能で感じ取っているのかもしれません。

座学の後は、お待ちかね、「野外で算数」実践の時間です。最初の遊びは、袋の中からそれぞれ1枚ずつカードを引き、そのカードと同じ色のものを自然の中から見つけ出すというもの。

▼ガーデン内「遊びの森」エリアに設置されているトランポリン(写真左)/大人も子どもも、真剣な表情で探す(写真右)

見つけたものは、木の実や葉っぱなど、さまざまです。それを前日と同じく、長いものから順に並べたり、古いものから新しいものへと並べたり。みんなの意見をまとめながら、出されたお題をクリアしていきます。

また、みんなで協力し合うことが不可欠だったのが、紐を使って木のブロックを吊り上げるゲーム。中央に釣り針のぶら下がり、そこから蜘蛛の巣状に何本もの紐が伸びています。数人で1本ずつ紐の端を持ち、たとえば円錐のブロックを吊り上げて、指定された位置まで運ばなければなりません。

▼古いってどういうこと? 新しいの基準は何?(写真左)/図形の勉強にもなるし、協調性も養える(写真右)

いくつかの遊びやゲームに、子どもたちはもちろん、大人たちも夢中になって取り組みました。楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕方からは振り返りの時間です。

参加者たちは、それぞれに感じたことや意見などをポストイットに書いて貼っていきます。ポストイットの数の多さが、みんなの溢れる思いを表しています。

▼体験した後は、山本さんの言葉がより伝わる(写真左)/今後の継続に繋がる、貴重な意見の数々!(写真右)

体験ワークショップを終えた参加者に、話を聞いてみました。紺野実緒さんは「上川町に住む者として、自然の中で遊ばせたいという思いはあるので、今回はうれしかったです」とのこと。

自らもサークルを作ったりイベントを開催したりするという岩城泉さんは「同じようなことをやりたいと思っても、個人では難しいので良かったです。まずは私たち大人の意識から変えることが大事だと思いました」と。

そしてカミカワークプロデューサーの2人にも、感想を伺いました。
「北欧を真似するだけではなく、参考にしつつも上川町ならではの形をみんなで作っていきたいと思いました」(絹張龍平さん)
「森のようちえんを卒園した子どもが、いつか小学生、中学生、高校生になっても遊びに来られるような場所にしたいですね」(近江美久さん)

▼紺野実緒さん、龍磨くん(4歳)親子(写真左上)/岩城泉さん、耀太くん(4歳)親子(写真右上)/近江美久さんと絹張龍平さん(写真左下)

2日間を通して、参加者も、スタッフも、手応えを感じたようでした。まだまだ始まったばかりの森のようちえん。これから先も継続し、同じ思いを持つ人が増え、いつしか森のようちえんが上川町のひとつの魅力として認識されるようになれば、こんなワクワクすることはありません。

上川森のようちえん
https://www.facebook.com/kamikawaforestkindergarten/